日本は実はレアアース資源大国!?南鳥島のレアアース泥について知っておきたい基礎知識。
米中貿易戦争において、中国側の切り札とされる「レアアース」。
2010年に中国が仕掛けたレアアース輸出規制によって、日本や欧米の各国はレアアースの対中依存度を下げるためにかなり努力してきました。
それでもアメリカはレアアースの輸入の8割を未だ中国に頼っている状況です。
しかし、近年になって、日本には膨大なレアアースが眠っていることがわかってきました。
日本が持つレアアース資源の可能性とはどのようなものなのでしょうか?
(レアアースについての基礎知識はこちらの記事を参考にしてください↓)
“夢の泥”であるレアアース泥の発見
「日本としてレアアースの安定的な確保にどのように取り組むべきなのか」
2010年のレアアースショック以降、これは日本の喫緊の課題であり、日本政府は手を変え品を変えて、レアアース資源を確保するための対策をおこなってきました。
2011年度には代替材料の開発に対して補正予算120億、リサイクル技術の開発で30億、海外のレアアース鉱山の探査と権益の確保に460億という額の国家予算を投じるなどしたのですが、どれも決定打には至りませんでした。
海外鉱山の権益を確保したとしても、そこで得られるのは軽レアアースのみであり、より価値のある重レアアースは得ることができないのです。
しかしながら、2011年7月、東京大学の研究チームがレアアースを高濃度で含む泥(レアアース泥と呼ばれる)が、タヒチ付近の南東太平洋(フランスのEEZ内)とハワイ付近の中央太平洋(アメリカのEEZ内)の深海底に大量に存在すること、総埋蔵量は最低でも陸上の800倍(~10000倍)にも達することを発見・発表しました。
さらにその後、それと同じ泥が日本最東端の島である南鳥島の排他的経済水域(EEZ)にも存在することが判明したことで、日本にもレアアースの安定的な調達・自給への希望が開けたのです。
南鳥島の海底に膨大な量のレアアースが存在することが判明したとのニュースは、2012年6月にNHKや大手のマスコミ各紙で報道されました。
ではこのようなレアアース泥の特徴はどのようなものなのか。太平洋と南鳥島のEEZでレアアース泥を発見した加藤泰浩氏は次の5つのポイントを挙げています。
①膨大な資源量が埋蔵されている
先にあげたタヒチ付近の南東太平洋に存在していると考えられるレアアースの量は、およそ120億トン。中央太平洋で760億トン。2つの海域の合計のレアアース資源量は合計880億トンにもなるそうです。
現在確認されている世界の陸上のレアアース鉱床の総埋蔵量は1億1000万トンといわれているので、そのおよそ800倍もの量になります。
しかし、この計算にはレアアース泥が存在すると考えられる他の海域を含んだものではないので、本来の資源量はもっと大きいと考えられる。
②高い重レアアース含有量
レアアースの特徴として、重レアアースの含有量が相対的に高いことも挙げられています。中国のイオン吸着型鉱床よりも重レアアースを多く含んでいるとのこと。
③トリウム・ウランなどの放射性元素を含まない
レアアース泥の最大の長所が、トリウム、ウランなどの放射性元素をほとんど含まないことです。
陸上のレアアース鉱床の場合、マグマの生成プロセスの関係で、軽レアアースとともにトリウムなどの放射性元素も高濃度で濃集してしまうのですが、レアアース泥はほとんどトリウムを含まないとのこと。
なぜなら、そもそも海水中に溶けているトリウムの量が少ないからです。ウランの場合も同様です。
このように放射性元素がほとんど含まれていないことで、資源開発も容易に進めることができると考えられています。
④探査が極めて容易
資源探査が容易なこともレアアース泥の大きな長所でです。
レアアース泥ほど資源探査にお金がかからない海底鉱物資源はほかにないと加藤教授は述べています。
またお金だけでなく時間もかからないようです。泥の掘削は岩石のような固いものの掘削と違っておそろしく早くできるからです。
⑤レアアースの抽出が極めて容易
レアアース泥の極めつけの長所は、抽出が容易なことです。
室温で薄い塩酸や硫酸につけることによって、簡単に、含有されるレアアースの約97%を取り出すことが出来ると言われています。
抽出するのに様々な条件を整えないといけない他の鉱物資源とは違って、レアアース泥はまったくその必要がないようです。
この日本に眠るレアアースについては中国も警戒感を強めているようです。
南鳥島の海底に眠るレアアース泥
以上のような特徴を持ったレアアース泥が、太平洋だけではなく、日本の南鳥島のEEZ内にも存在することが判明しました。
南鳥島は本州から1800km離れた、日本最東端に位置する島。
一辺2kmの正三角形の形をしており、島には海上自衛隊や気象庁の職員が駐在していて、飛行機の離着陸用の滑走路も存在する立派な島です。
もともと南鳥島は1億2000年前にタヒチの近くで生まれた島であり、それがプレートの移動に乗せられて、現在の位置にまで到達したもの。
つまりレアアース泥が堆積した海底と共に南鳥島は移動してきたということです。
南鳥島の場合、周辺海域の水深約5000mのところに、高いレアアース含有量の泥が存在しているとされており、その資源量は“無尽蔵”。
ではどのようにレアアースの開発を行えばよいのでしょうか?
レアアースを揚泥するために使うのは、レアアースFPSOという船です。
FPSO(浮体式生産貯蔵積出設備)とは、もともと海底の石油開発に使われている船であり、石油を掘るだけでなく、貯蔵することもできる巨大なタンカーのようなもので、大きさはサッカー場2面くらいであります。
このレアアースFPSOを使って、レアアース泥を揚泥し、それを南鳥島に建設したレアアースの抽出・精製工場に運ぶことになります。
ゆえにレアアース開発のためにまずやるべきことは、南鳥島に港湾をつくるための公共投資を行うことです。
南鳥島には現在、FPSOなどの船舶が接岸できる港湾は存在しません。
なので、港湾建設のための公共投資をまず行う必要があります。
次に、レアアースの抽出・精製を行う陸上工場を南鳥島に建設すること。
塩酸・硫酸を使ってレアアースを泥から抽出した後の残泥は、水酸化ナトリウムを使って中和をし(水と塩ができる)、南鳥島周辺の埋め立てに使えれば一石二鳥になります。
残泥の埋め立ては領海内で行うため国内法の縛りしかありません。
東京都の石原元都知事も「南鳥島は国防上の非常に重要な戦略拠点であるからすぐに整備すべきだ」と述べていました。
レアアースの資源開発と、南鳥島の埋め立てによる戦略拠点としての強化を同時に行っていくべきでしょう。そのことが開発の生産性を上げることにもつながるからです。
レアアース開発にかかる収益と費用は?
ではレアアースの開発から得られる収益と費用はどれくらいになると言われているのでしょうか。
加藤教授の試算によれば、収入は一艘の船(レアアースFPSO)で年間700億になると言います。(現在のレアアースの市場価格に基づいている)
これは1日に1万トンの揚泥を年間300日間行った場合です。
これで日本のレアアース需要の約10%をまかなえると言います。
さらに、レアアースの中でも最も重要言われるジスプロシウムは、16~18%もまかなうことができるそうです。
レアアース泥の開発によって、今後需要が逼迫してくる元素を中心に儲けが出ると試算されています。
一方の開発費用は、海底鉱物資源の開発がこれまで一度も行われたことがないため十分なデータが存在していないのが実情。
ただ少なくとも、1年目~3年目を建設期間、4年目から試運転期間、5年目から実際に操業を開始し、建設期間から数えて20年間開発を続けた場合、DCF法(Discounted cash flow法)でレアアース泥プロジェクトの採算を計算すると、NPV(正味現在価値)は112億、IRR(内部収益率)っは11.8%で、回収期間は16.5年との結論が今のところ試算されているようです。
当然、これからレアアースの市場価格が上がっていけば、その分収益もさらに増えていくことになります。そしてその可能性は高いと考えられます。
なぜなら、レアアースの供給サイドで見れば、現在生産を独占している中国が、環境重視のレアアース生産へと切り替えつつあることで、レアアース生産のコストが上昇し、そのコスト増加分が価格に上乗せされると考えられるからです。
需要サイドで見ると、アメリカのエネルギー省による2025年までの世界のレアアースの需要予測量によれば、今後長期的にはジスプロシウム、ネオジム、ユウロピウム、テルビウム、イットリウムなどのレアアースの需要が大幅に増加すると言及されています。
さらに、レアアースを使った電気自動車やLEDディスプレイ、光学ガラスなどの需要も今後急激に増えていくでしょう。
このような供給サイドの縮小と需要サイドの拡大のトレンドによって、今後レアアースの価格は長期的に右肩上がりで推移していくことが予想されています。
また同時に、レアアースの揚泥、精製などの技術が向上しコストが削減できるようになればさらに収益は増加します。
それゆえに、今日本として南鳥島のレアアース開発に投資をしておくことは、中国に対する資源外交を優位に進めていくという意味でも、日本と世界の将来にわたる安定的な富の総量の拡大という意味でも重要なことなのです。
まとめ
日本に眠るレアアース資源について見てきました。
南鳥島のレアアース発掘が本格化し商業ベースに乗ってくれば、日本は一躍資源大国になります。
ぜひ政府にも積極的にレアアース資源の実用化に向けて投資を進めていただきたいと思います。
南鳥島のレアアース泥を発見した東京大学の研究者である加藤泰浩さんの著書に、より詳細な内容が載っているのでぜひ読んでみてください。(Kindle unlimitedに登録すれば無料で読めます(^-^))